昨日こんな記事が上がっていました。

イチローのマリナーズ復帰の可能性はあるのか?

THE PAGEというメディアの記事で、書いたのはシアトル在住のスポーツライター丹羽政善氏。

ごく簡単にまとめると、マリナーズのジェリー・ディポトGMはイチローとの契約に前向き。しかし、イチローとの契約はGMの裁量の範囲を超えているのでオーナーグループの承認が必要となる、というもの。

これを読んだときに、自分の認識と全く違ったので違和感しかありませんでした。

まず、ディポトGMがイチローとの契約に前向きと判断しているのは、GM会議でのコメントからです。記事から引用します。

 そんな一方、やはりGM会議の会場でマリナーズのジェリー・ディポトGMは、「イチローとマリナーズの歴史、関係は大切なもの。彼のレガシーにも敬意を抱いている」と語り、「彼がFAになったことは、十分に承知している。これから話し合うことになるだろう。ドアは開いている」と続けた。

その言葉だけをつなぎ合わせれば、十分に獲得に前向きと捉えていい。レギュラーの中堅手がおらず、外野手の層が薄いのも事実だ。

このディポトGMのコメントは、MLB公式サイトの「Dipoto talks Ohtani, Ichiro at GM Meetings」の記事に載っていましたので、該当部分を引用します。

"I think his history and legacy in Seattle is both important to the franchise and important to Ichiro. So the fact he's now a free agent, it certainly leaves a door open. That being said, we have to address our needs and in what order they go."
「イチローのシアトルでの歴史や遺産は球団にとっても彼にとっても重要なものだと思う。彼は現在フリーエージェントだから、ドアが開いているのは確かだ。とはいえ、我々は我々のニーズに順番に対処していかなければならない」

どうでしょう。受け取る印象が違うと思います。最も重要なのは「とはいえ、我々は我々のニーズに順番に対処していかなければならない」の部分でしょう。前置きでイチローの功績に敬意を払いつつ、本当に言いたいのは”ニーズに対処しなければならないからイチローとの契約は現状考えられない”ということのはずです。なぜこの部分をカットしたんでしょうか。


次の部分を見ます。

 もちろん、彼を囲んでいた大半が日本のメディアだったことから、リップサービスの可能性もあったが、イチローの話題を切り出した大リーグ公式ページでマーリンズの番記者を務めるジョー・フリサロ記者に、ニュアンスをどう読み取ったかと聞くと、こう答えている。

「獲得の意思がゼロだとしたら、あそこまで評価するかな」

このような記述で「イチローとの契約に前向き」という解釈を補強しています。しかし、このジョー・フリサロ記者はイチローに非常に好意的な人です。検索してみればわかりますが、公平な見方ができる記者というよりも、イチローのファン、イチローのサポーターという感じです(Google検索)。というわけであまり参考になりません。


さらにその後の部分で丹羽氏は「イチローとの再契約に関しては、わざわざなにかを仄めかす必要はない。再契約の可能性がなければ、世代交代を図っているからと言えば済む話である」と書いています。

繰り返しになりますが、上のディポトのコメントを素直に受け取ると、なにかをほのめかしているようには聞こえません。現場にいた丹羽氏は文章には現れない何かを感じ取ったのかもしれませんが。


また、「イチローとの再契約ともなれば、ディポトGMの裁量の範囲を超えているのではないか」としています。なぜそう考えるのでしょう?

丹羽氏自身もその直後に「かつてであれば、当然ながら任天堂の意思が反映されたはずだが、球団の所有比率が10%で第3位となった今、影響力がどこまで及ぶのか不透明だ」と書いています。本当にその通りです。

マリナーズは日本人選手と縁が深いとはいえ、今や株式の保有比率は10%になって任天堂の手から離れているのです。オーナーグループの意向は関係ないでしょう。そもそもGMがイチローとの契約に前向きなら、それに反対するオーナーグループの意向とは一体何なんでしょうか。巨額の契約ならオーナーの承認が必要というのは理解できますが、格安のイチローの契約に反対する理由はよくわかりません。


ただの一ファンである自分が現地で取材をされているライターの方に異議を唱えるのはおこがましいかもしれませんが、この記事はイチローとマリナーズの現状を正しく伝えているとは思えません。

MLB公式サイトでマリナーズを担当しているグレッグ・ジョンズ記者は、ファンの質問に答える記事の中で「44歳の右翼手とマリナーズが再び契約する可能性は極めて低い。…考えられるシナリオは、イチローが引退を決意したときに”マリナーズの一員”として引退できるように象徴的な1日契約を結ぶことだ」と答えていました(記事)。これがごく自然な見方でしょう。

もしこのオフにマリナーズがイチローと契約したら全力で謝ります。でも同時に、来季もポストシーズンを目指すマリナーズにとって、イチローとの契約が正しい判断だとは到底思えないということも言っておきたいと思います。


日本人ライターの方が貴重な情報を伝えてくれている記事ももちろんありますが、情報を正しく伝えていなかったり、実情とは違う印象を与えているなと感じるものも多いです。メジャーリーグのファンとしては変なフィルターを通さずにメジャーリーグをそのまま楽しんでほしいと思っているんですが、なかなか難しいですね。