2015年に全球場で導入され、今やなくてはならないツールとなったスタットキャスト。

スタットキャストも3年目になって、利用できるデータが格段に増えました。初めは打球の初速と投球のスピンレートだけでしたが、今ではスプリント・スピード、キャッチ・プロバビリティ(捕球可能性)、打球の飛距離、xwOBA(Expected wOBA、打球の初速と角度をもとにしたwOBAの予測値)、Outs Above Average(OAA、外野手の守備範囲の指標)などさまざまなデータがあります。

MLB公式サイトの記事では、スタットキャストで印象的な数値を記録した「スタットキャスト・オールスターズ」とも言えるメンバーが紹介されていました(「Measuring slick: All-Statcast Team dazzles」)。ポジションごとに1人ずつ選ばれています。


捕手:J.T.リアルミュート(マーリンズ) ”最も素早い捕手”

リアルミュートのスプリント・スピードは28.6 ft/secで全捕手の中でダントツです。スプリント・スピードは27 ft/secが平均(捕手以外も含む)で、リアルミュートはトラウトやマカッチェンを上回っています(参考)。

またポップタイム(捕手が捕球してから二塁に送球が到達するまでの時間)の平均が1.89秒で、盗塁を10回以上企図された捕手58人の中でパドレスのオースティン・ヘッジスと並びメジャートップでした。


一塁手:ジョーイ・ボット(レッズ) ”選球眼の王”

スタットキャストではストライクゾーンの端の近辺をDetailed Zoneと呼んでいます。この図の11から19までのゾーン。緑のラインがストライクゾーンです。

ボットはこのDetailed Zoneの外側のボールを振った率が5.3%でメジャーで最も少ない打者でした(参考)。ちなみにワーストはサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)で38.3%です。


二塁手:ホセ・アルトゥーベ(アストロズ) ”必要な時のスピード”

アルトゥーベの2017年のスプリント・スピードは28.0 ft/secでした。27.0 ft/secが平均、30.0 ft/secでエリート級なので、アルトゥーベは意外と”普通に速い”レベルなんですね。全二塁手の中でも9位でした(参考)。
しかし必要な時にはトップクラスのスピードを出すことができます。9月には29.9 ft/secを記録し、スタットキャスト史上最速の3.33秒で一塁まで駆け抜けました。


遊撃手:カルロス・コレア(アストロズ) ”ヒューストンのロケット”

2015年のMLB.comのスカウティングレポートで、20-80のスケールで70と評価された強肩の持ち主。スタットキャストでは、送球の速さ上位10%の平均速度で選手の肩の強さを測ります。2015年は86.1マイルで遊撃手35人中5位、2016年は87.5マイルで36人中4位、そして2017年は88.1マイルで36人中1位でした。


三塁手:マニー・マチャド(オリオールズ) ”ハードヒットを積み上げる男”

今季のマチャドは.259/.310/.471(打率/出塁率/長打率)と昨季の.294/.343/.533から成績が低下。特にオールスター前は.230/.296/.445と残念な数字でしたが、ハードヒット(スタットキャストの定義では95マイル以上の打球)の数はメジャートップで、復調が予想されていました。実際、オールスター以降は.290/.326/.500と昨季に近い数字を残しました。シーズントータルのハードヒット数も250で、2位のホセ・アブレイユ(230)に大差をつけての1位でした(参考)。


左翼手:トミー・ファム(カージナルス) ”多岐にわたるブレイクのシーズン”

初めてのフルシーズンで.306/.411/.520、23本塁打、25盗塁とブレイク。さまざまな面で優秀な数値を記録しました。
・送球の速さ上位10%の平均速度が93.7マイルで、左翼手ではスターリング・マーテの94.1マイルに次ぎメジャー2位。
・Outs Above Averageは+6と優秀(参考)。
・スプリント・スピードは28.7 ft/secで左翼手中3位(参考)。
・ゴロ以外の打球のwOBAが.720で、左翼手ではマイケル・コンフォートに次ぎ2位(参考)。


中堅手:バイロン・バクストン(ツインズ) ”MLB最速の男”

・スプリント・スピード30.2 ft/secはメジャー全選手中トップ(参考)。
・Outs Above Averageの+25は2位に大差をつけてトップ(参考)。
・8月に放ったランニングホームランではダイヤモンド1周を13.85秒で駆け抜け、スタットキャスト計測史上最速を記録。


右翼手:アーロン・ジャッジ(ヤンキース) ”2017年のスタットキャスト・スター・オブ・ザ・イヤー”

・xwOBAが.446でメジャートップ(参考)。
・打球の平均初速も94.9マイルでメジャートップ(参考)。
・ハードヒット率も55%でメジャートップ。
・バレル数87もメジャートップでシーズン最多を更新(参考)。
バレルとは打率.500、長打率1.500以上を記録する初速、角度の打球のこと。下の図の赤い部分がバレルで、初速98マイル、角度26~30度を中心に、初速が上がるごとに角度が広がっていく。例えば、99マイルなら角度25~31度、100マイルなら24~33度になる。
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・スタットキャスト史上最速121.1マイルのホームランを記録し、打球の初速ランキングトップ5のうち4つはジャッジだった。
・今季最長495フィートのホームランを放った。

先発投手:マックス・シャーザー(ナショナルズ) ”最も支配的な先発投手”

xwOBAが.242で全先発投手中ベスト(参考)。三振の割合は34.4%でクリス・セールに次ぎ2位。ハードヒット率29.2%は9位。フォーシームのスピンレートが2504rpmで、ジャスティン・バーランダーに次ぎ2位でした。


救援投手:ケンリー・ジャンセン(ドジャース) ”最も支配的な救援投手”

xwOBAが.198でメジャートップ。.200を切ったのはジャンセンただ1人でした(参考)。

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やはりバクストンのスピードとジャッジのパワーは非常に印象に残っています。”スタットキャストの申し子”といった感じですね。

スタットキャストの導入によって、選手のパフォーマンスを分析する方法が大きく増えました。特にxwOBAは、打者の打った打球、投手の打たれた打球の質を数値化してくれるもので、非常に画期的だと思います。

今後さらにデータが蓄積し研究が進むことで、活用の場が広がっていくことは間違いありません。